残り香探し 3. 赤

    かーさんかーさん、ひまわりがさいてたよ!
     へーそうなの!どちらかしら?
    フェロルおばさんのおうちだよ!!
     そうなの!連れて行ってくれる?
    うん!
     そういえば、あの子はひまわりが好きだったわね。
    ぽっかぽかでほわほわなあの子!
     そうよ、元気にしてるかしらねー。
    ――咲き誇る前に散ればよかったモノを……!


     うふふ、意外に私ったら有名人じゃない。
    なーんて喜ぶわけないわよ!
    せっかくのバカンスなのに遊べないじゃないの!
    まさか賞金首が堂々と歩いてるとは思わないでしょうねぇ。
    写真の私ったらとおおおおっても若いし!
    あら、まるで私が年取ってるみたいな言い様じゃない?
    失礼しちゃうわ! なーんてね。
    ふざける前にとんずらしてバカンスでも楽しもうかしら。
     虚しいわ。
    結局何しても穴は埋められないのよ。
    気まぐれに言い寄ってきた男を餌食にしても、だーれも殺してくれないから。
    穢れるだけ穢れて、私はね、どうせ救われない。
    だったらさっさと地獄に落としてよ。
    熱い業火で私を包んで!
     暑さが堪える。
    雪国暮らしの私には相当きつい。
    だが、ここを通るしかやつの目的地へは辿り着かない。
    海辺ではしゃぐ幸せな人たちを横目に、俺は女主人から借りた小型車を跳ばす。
    エアコンは目が乾くから嫌いだ。
    生温かい風で耐えるが、すっきりという言葉がすっかり辞書から消えたな。
    汗っかきじゃないことが唯一の救いだな、全く。
    返す時は念入りに掃除をしてから返さなきゃな。
     貼り紙を見つける。
    人はさまざまだったが、その中に目的のやつは居た。
    『賞金100万』
     金なんかはいらない。
    殺す理由が正当に出来た。
    それだけで十分だ。
    金は女主人にでもやろう、車のお礼に。
     夏の終わりなのに、今年はいつもより夏が長い。
    花咲き誇る季節、嗚呼憎い。
    ひまわり畑を見るたびに、ひまわりが輝く姿を見るたびに、思い出したあの日から憎悪が胸に込み上げてくる。
     夏よ終われ。
    忌々しい業火とともに。
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