残り香探し 5. 黄

     あれから町へ戻ると氷に閉ざされる季節になっていた。
    ……そう、もう一年だ。
    車を返す前に彼女を隠さなくては。
    まだ書類は出していない。
    彼女は“生きて”いる。
     変わらない。
    初めての殺人の日も、二度目の来訪の時も、いつだってこの町は雪に閉ざされていた。
    “いくぞ”
    と、ぶっきらぼうな声が降ってくる。
    ちょうど一年前に来た館の前か。
    なんて呟くと“早くしろ、死にたいのか?”
    ものすごく怖い顔して言ってきた。
    これが殺すために一年もかけて追ってきた人が言う言葉なのかしら?
    笑わせちゃうわね。
     なにを笑ってるのだろう。
    賞金首の意味もわかっちゃいないのか?
    まさか、そこまで馬鹿じゃないだろ?
    とにかく館に入らないとな。
     半ば強引に連れてかれたわ。
    これは誘拐ね。
    なーんて言いたいとこだけど、
    “殺人犯を誘拐する馬鹿がいるか”
     なんて怖い顔して言われそうだからやめとくわ。
    にしても埃っぽい。
    至るところ蜘蛛の巣だらけ!
    そんなこと考えてたら、
    “掃除でもしてくれたら助かる”
    そう言い残して彼は外に出てった。
    従う気はなかったんだけど、やっぱりこれから過ごすのに不満なのは確かだから、掃除してやるわよ。
    あ、なんか生きているような気がしてきた。
    皮肉なことに。
     思ってたよりでかいわね。
    別にだからと言って迷ったわけじゃないわよ!?
    はぁ。ここどこよ?
    同じ部屋がずらずらと、最悪だわ。
    慣れないことはするなってことね?
    別に慣れてないことなかったのに。

    “今日はバレンタインデーよ。”
     女主人が言ってきた。
    だからなんだと言うと、
    “男の子が女の子に贈るのが流行りなんだけどなぁ”
    催促をしてるのか?
    鼻で笑ってしまった。
    母の旧友は子供の様に頬を膨らますと奥へ引っ込んでいった。
    相変わらず心は若いな。
    勘定置いてふらっと町に出てみる。
     確かにチョコ売り場では男も混ざっている。
    何でもかんでも逆にすればいいもんじゃないだろ。
    まぁ、あえて乗ってやるか。
    一つ買って、迷ってへたり込んでるであろう者のため帰路を急ぐ。
     あーもう!まだなの!
    冷え込みが厳しくなってきた。
    手が真っ赤になったじゃない!!
    結局私ったら死ぬのね……眠いわ。
    冬は苦手なのよ。
    ……。
    “何死のうとしている?”
     声が降ってきた気がする。
    けどもう寝るんだから、起きてやんないわ。
     馬鹿な奴だ。
    暖炉の前に連れてきたときには爆睡していた。
    明日にでも館内案内でもするか。
    いつもいつも迷われちゃどこにも行けやしない。
    Retsisと名を呼ぶと、寝返り打ってソファーから転落した。
     痛い。
    しかも笑われてる、二度痛い。
    この男、女心が分からないようね。
    ムスッとしてると箱を渡された。
    何考えてるの?モノでゆるされるってつもり?
     タイミングが悪いか。
    完全にお怒りモードだ。
    とにかく受け取れ、今日はバレンタインデーらしいからな。
    怒ると思ったら爆笑された。
    “バレンタインデーは女が男に渡すのよ”
     こいつも古い口か。
    馬鹿にしながらも箱を開けている。
    何を考えている? わけがわからない。
    だが、、この冬は退屈しなくて済みそうだ。
    この花がいつまでも屋内に居るわけないだろうしな。
    外に出るたびに寿命が縮む。
    助けたことを後悔する日がいつか必ず来るに違いない。

    “My children, so why do you have to feel such enmity that you never meet?
    I don't hope such a thing.
    I hope to your living.
    If...my soul had lost.
    It does not matter.”
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