カサブランカ

    「待ち続けようと思うんだ」
     霞んだチャペルに背を向けて、去り行く人が言った。
    祝福に湧き、受かれた声が不愉快だったのだろうか。
    その人は、祝福の華を一つ一つ踏み締めて行った。
    純白を茶に染めて行った。


     連日紙面に居座っているデフレの三文字の如く泥沼にはまってゆくばかりのこの物語に、ピリオドを打つことを望んでいたのは他でもない自分であった……筈だ。
    着慣れ、くたびれた黒のトレンチコートを纏い、自分は居た、誓いの場に。
    ……示すは否定。
    ヴェールに包まれた愛し人の横顔をチラと見て、それで全てを過去にしようと自分に言い聞かせ、名簿には不参加を囲んだ。
     その姿、カサブランカ。
    この世で、最も愛する華のように、気高く清楚。
    伸ばした手は欠片さえ掴めず、空を切っただけ。
    突き付けられた現実に息が詰まる。
    踵を返したのは生存本能からだろう。
     光を照り返す白がただただ目障りで踏み潰した。
    背からは誓いの決まり文句と讃歌。
    ヴェール越しの笑顔が遠い。
    「何故、私はピリオドを打たねばならなかったのだろう」
     理不尽な決定をこれほどまでに恨んだことはない。
    茫然と立ち尽くし、ヴェール越しの最後を思い返す。
    「待ち続けようと思うんだ」
     反発力が強すぎて終わりをむかえた生産性の無い想い。
    扱いやすい奴……そう思われていたのだとしても構わない。
    笑顔の裏に真実があると信じて,そう呟いた。
    (枯れてくれない,愛しのカサブランカ)
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